「無告の民の声」
 無告の民。それは「告げ訴えるところのない民」である。ホームレスの多くが無告を強いられている。無告の民の最後は「無縁仏」。「無関係」の宣告をもって無告の民の生涯は閉じられていく。彼らを忘れるものなどいない。なぜなら最初から誰も彼らの事など覚えていないのだから。彼らの歴史と彼らの叫びは、誰にも顧みられることはない。北九州のホームレス支援活動は、今年12年目を迎えた。それは命への支援であったと共に死んでいった無告の民の声に耳を傾けた日々だった。「犬や猫ではあるまいし。あの人がいたな、あの人が死んだなと覚えられたい」。駅裏で寝るKさんはそう語った。「あなたは何をしたのです。あなたの弟の血が土の中から私に叫んでいます」(創世記第4章)。神は無告のままに死んでいった者(殺された者)の叫びを聴きたもう。その時無告の民は復活し、語り始める。「死者を持って語らしめる。」ここに罪責を根幹に置いた歴史形成の営みがある。その時残された者や殺した者の次の生き方が見えてくる。主にあって無告の民の声を聴く。失われた死者たちの叫びに耳を傾ける。「聴く耳のある者は聴きなさい」。ホームレス支援の現場にイエス・キリストの声が響く。
{解放のはばたき}から転載